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『自転車 × まちづくり』の可能性と課題

2017/3/9(木)

福井工業大学
工学部建築土木工学科/基盤教育機構
准教授/博士
吉村 朋矩

『自転車 × まちづくり』の可能性と課題

近年のエコブーム、健康志向の高まりといった時代の価値観の変化、人口減少・少子高齢化、そして地震や土砂災害など度重なる災害への対応、これらが複合的に作用することで都市部を中心に自転車利用者が増加してきているのではないかと考えられている。自転車は、通勤や通学、買い物など日常使いの他にレクリエーション・サイクリング、観光目的にも多く利用されるようになった。しかしながら、特に地方都市では自動車優先という考え方が根強く、自転車への関心が低い傾向にあり、自転車通行空間や自転車駐車場などのハード対策および、啓発活動や自転車教育などのソフト対策を含めた自転車利用環境の整備が遅れている。また、全国的に自転車と自動車、歩行者と自転車との事故への対策が急務となっている。
そこで、次世代により良い都市・交通環境を引き継ぐためにも、過度に自動車に依存した交通環境から脱却し、歩行者・自転車や公共交通、自動車、新たなパーソナルモビリティ等が共存できる都市空間を構築することが重要である。私は、一人一人のモビリティが社会にも個人にも望ましい方向に自発的に変化することで、「誰もが暮らしやすいと思えるまち」の形成につながると期待している。

 

自転車利用のススメ

環境にも家計にも、そして身体にもやさしい乗り物が自転車である。また、国土交通省の資料によると、約500mから5㎞弱の距離の都市内移動では、自転車が他の交通手段に比べて時間的にも有利であるとされている。これは世界的にも標準とされており、ヨーロッパ諸国の自転車政策や計画にも記述されている。
自転車のメリットは表1の通りである。環境面では、1人を1㎞運ぶのに排出する二酸化炭素は、自動車が168g-Co2/人キロ、最も排出量が少ない電車においても22 g-Co2/人キロであるのに対し、自転車・徒歩は0g-Co2/人キロである(図1)。地球規模でみたときには、地球温暖化の防止、自然保護につながり、個人では環境に対する配慮をライフスタイルの中に取り入れることにより環境保護に努めているという意識が醸成され、さらなる行動につながっていく。地域や国ではサイクルツーリズムやエコツーリズムを通じて、活力ある持続的かつ魅力あふれる地域となることが期待できる。健康面では、「メタボリック・シンドローム」に代表される肥満や高血圧など生活習慣病の対策としても、非常に有効な手段ともいわれている。健康面で特に気を付けたいと思っている筆者は自転車を可能な限り利用し、通勤やその他の移動、週末のサイクリングを楽しんでいるが、自転車が使えない(使いたくない)季節になると、健康面での不安が増す一方である。(話を戻して…)防災・減災面での自転車の有効性については、次章で述べることとする。

 

分野・規模別にみた自転車利用のメリット

表1 分野・規模別にみた自転車利用のメリット

※「健康費用」は、フィットネスクラブ、医療費など、「移動手段の平等化」は、オーストラリアなどでいわれている貧困層や移民層でも移動手段を容易に入手できることにより、誰でも平等に移動する権利が保障されることをいう。

成功する自転車まちづくり 政策と計画のポイント(古倉)より筆者作成

旅客輸送機関別の二酸化炭素排出原単位(2012年度)

図1 旅客輸送機関別の二酸化炭素排出原単位(2012年度)

 

災害時における自転車活用の可能性

最近ではノーパンクタイヤ着用の自転車や性能の良い折り畳み自転車、さらにはノーパンクタイヤに加えて発電機や蓄電池としても活用できる防災自転車、ママチャリといわれるシティサイクルタイプからロードバイクなどのスポーツサイクルタイプまであらゆる用途の自転車が販売されている。そのなかでも、災害に備えるといった観点からは防災自転車はもちろんのこと、小型軽量の折り畳み自転車は大変有効な乗り物であると考えている。折り畳み自転車は、“乗る”と“持ち運ぶ”を目的に開発された乗り物であり、第二次世界大戦で各国の空挺部隊が実戦で使用するといった軍事利用が最初にあった。
最近では、東日本大震災の際の東京で、自転車通勤者は楽に帰宅することが出来たと後の調査で明らかとなっている。大震災の際、首都圏の鉄道網は軒並み停止し、道路では自動車が溢れ大渋滞が発生した。公共交通も自動車も動かなくなると、自分の足で移動するしかない。このようなことから、帰宅困難者が大量に発生した。したがって災害に備えるためには、自転車を職場などに常備することが望ましく、専有面積の小さい折り畳み自転車であればワークスペースや机の下などどこにでも置いておくことが可能である。自転車を常備しておくことで、災害時の移動手段や、迅速的な被害状況の確認等に有効に活用できるのではないかと期待している。

 

安全な歩行空間と自転車空間の創出を目指して

現在、自転車の歩道通行が一部認められている背景として、1960年代のモータリゼーションの進展に伴い増加した自動車とこれまで車道を通行していた自転車との事故が増加したことで、1978年に緊急措置として自転車の歩道通行が可能となった。一方、近年の自転車関連事故の増加を受け、例えば2011年には自転車の原則車道通行を警察庁が明確に示し、2012年には国土交通省および警察庁による「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン(2016年改訂)」で、今後の自転車計画の在り方や自転車通行空間の整備等について示された。これらによって、国としては自転車通行空間の整備形態として自転車専用通行帯・自転車レーンの推奨および、地域の自転車利用実態に応じて各自治体が計画性のある自転車利用環境を整備していくことを望んでいる。

 

出典:第95回交通工学講習会,自転車通行を考慮した交差点設計の考え方,2014.

幹線道路と細街路との交差点における自転車関連の出会い頭事故発生状況

図2 幹線道路と細街路との交差点における自転車関連の出会い頭事故発生状況

 

幹線道路と細街路との交差点における左折時の自転車事故発生状況

図3 幹線道路と細街路との交差点における左折時の自転車事故発生状況

 

自転車ネットワークの作成事例(福井県大野市)

図4 自転車ネットワークの作成事例(福井県大野市)

 

自転車道整備の事例(香川県高松市)

図5 自転車道整備の事例
(香川県高松市)

 

自転車専用通行帯整備の事例(静岡県静岡市)

図6 自転車専用通行帯整備の事例
(静岡県静岡市)

細街路での車道混在整備の事例(石川県金沢市)

図7 細街路での車道混在整備の事例
(石川県金沢市)

 

大規模自転車道整備の事例(福井県大野市)

図8 大規模自転車道整備の事例
(福井県大野市)

 

「誰もが暮らしやすいと思えるまち」の形成に向けて

都市の大きさや構造は、時代の主な交通手段の移動速度が大きく関係しているといわれている。欧米諸国、日本においても、徒歩の時代から公共交通機関の時代へ、自動車の時代へと移り変わると都市の規模は飛躍的に広がり中心市街地ではスプロール化、郊外では大型商業施設の建設、その周辺に住宅地の開発が進み、人口密度が減少してきた。これからの時代においては、都市機能を再構築するための移動速度とは何なのか、都市・地域の質を高めるためにはどうすれば良いのか、今一度個々人が考える必要があるのではないだろうか。
私は、「自転車が利用しやすいまち」こそ災害に強く、環境にも優しく、地域の魅力をより一層高める可能性を秘めており、「誰もが暮らしやすいと思えるまち」の形成につながるのではないかと考えている。そのためにも、自転車を公共的な交通であると位置づけ、社会インフラの中で自転車と歩行者、公共交通、自動車が共存できる都市空間を構築するための方策を考えていかなければならない。例えば、自転車の通行空間整備の他に、自転車とその他の交通手段との連携として、サイクルトレインの運行促進や、シェアサイクル事業の促進、サイクルアンドライド、パークアンドサイクルなどが挙げられる。その他、効果的な自転車教育や自転車利用促進に関わる啓発活動の実施を行っていくことが大切である。
福井県内では現在、福井県地球温暖化防止活動推進センター他の共同による「カーボントラッカー事業」に取り組んでいる。そのなかで移動時のCO2排出量の見える化の他に移動手段や経路・時間の収集を行っている。今後、特に福井県ではカーボントラッカー事業でのビッグデータの活用を検討し、移動経路等の見える化を行い、都市や交通など種々の施策に反映することが望まれる。以上の様々な取組みが複合的に作用することによって、自転車ブームが習慣となり文化となって自転車まちづくりが根付くことで「誰もが暮らしやすいと思えるまち」の形成につながると期待している。

自転車シェアリングと公共交通の連携

図9 自転車シェアリングと公共交通の連携

 

コンビニエンスストアと連携した自転車シェアリング

図10 コンビニエンスストアと連携した自転車シェアリング

小学生を対象とした 自転車利用啓発・教育

図11 小学生を対象とした 自転車利用啓発・教育

 

 

 

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