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再生エネルギーセンター
木質バイオマス

木質バイオマスのエコロジー経済学

2015/12/16(水)
同志社大学名誉教授(経済学)、元「炭焼きの会」顧問 室田 武

「里山」が語られる現代

 里山が盛んに語られる今日この頃であるが、私自身についていえば、幼少のころには全く聞いたことのない言葉である。幼少期どころか、大人になっても、1990年代に入るまではほとんど聞くことのなかった言葉だ。とはいえ、1983年に『雑木林の経済学』という図書を武蔵野のある出版社から刊行していただき、いま考えてみれば、里山の経済学という題にしてもよかった内容である。雑木林の広がる人間の生活空間が里山だ、といえなくもないからである。

里山の原風景と薪炭利用

 言葉についてはさておいて、北関東で祖父が元気で農業を営んでいた幼少期の我が家では、どこかへ出かけなくても、家の周りそのものが里山のミニチュアであるといってよいものであった。ただ、誰もそれを里山とは呼ばなかっただけのことである。
 そこにはクリの木が数本、カキの木が10本くらい育っていて、年によって当たりはずれがあったものの、秋ともなれば栗や柿の実の恵みがあった。庭木のなかにはモッコクのような常緑樹もあったが、紅葉する木々もあった。表庭はそんな風だったが、裏庭側にはスギの木も3本ほど高く伸びていた。冬に多かったような気がするが、枯れ枝をたくさん落とした。スギの枯れ枝は、風呂焚きの燃料の着火剤として最適で、その収集は子どもの私にも簡単にできる仕事であった。それを「山でスギの葉を拾ってくる」と称したが、家の周囲が斜面だったわけではなく、広い北関東平野の一部であった。
 幼少期の私にとって山とは、そびえ立つ山ではなく、「風呂焚きの燃料を身近に提供してくれるところ」だったのである。シイの木もあってたくさんドングリを落とした。スギの葉だけでは風呂焚きはできないが、それ以外にも庭木類の枯れ枝や剪定枝の類が沢山あったから、薪を外から購入する必要はあまりなかった。
 家の西側は小さな竹林であった。子どものころにはわからなかったが、いま思えば、冬にはそれがいわゆる‘空っ風’を緩和してくれたらしい。マダケの林で、6月には毎日の食卓が筍料理であった。竹トンボや竹馬の材料に事欠かくことはなかった。屋敷を囲む塀(くね、といったが)は、そのマダケを大量に切りそろえた自家製だった。
 初冬には家の南の日当たりのよい小区画に小麦を蒔いた。6月初旬、そこは黄金色に輝いた。小さな麦秋である。収穫後の私や妹たち子どもの楽しみは麦藁細工であった。かごを編んでイチゴを盛ると特に華やかだった。冬の麦畑は、夏にはさまざまな野菜の畑へと変身した。祖父は大家族のために稲作にも熱心であった。ただし、水田は屋敷のすぐそばからはやや離れたところにあったので、自転車が便利であった。

里山の生態学的、人類学的意味

 高度経済成長の荒波は、こうした北関東平野部の純農村のくらしを根本的に変質させた。家庭の事情についていえば、父は農業を継がず、私は高校卒業後は都市に出た。帰省するたびに、近隣の水田が次々と工業団地とサービス業の団地に転換していく様子がよく分かった。
 1970年代も終わるころになってようやく私は、雑木林の生態学的、そして人類学的意味を知り、その10年後くらいには里山という言葉にも接するようになった。最近では、全国的に里山に関する図書や論文が氾濫するようになったが、今ふりかえってみれば幼少期の私自身が、里山の機能をもつ屋敷林の中で育ったわけである。遊びも食生活も風呂焚きも、かなりの部分が里山に依存し、生活と里山は一体化していた。
 石油文明が到来して、人間生活と雑木林は切り離されるようになったが、それでよりよいくらしができるようになったか、と問えば、むしろ生活の質は低下している。里山は生物多様性の宝庫であるといわれるが、その里山なしの生活ができるようになるとともに、奥山の針葉樹林も荒廃するようになった。これには木材輸入自由化政策が関与しているが、自由化をやめられないならば、その弊害を除去する何らかの政策が必要であり、それによって国内林業を振興することが肝要である。

木質バイオマスの展開

 里山と奥山をともに元気にするには、木々や竹を素材と見るだけでなく、木質バイオマスとしてエネルギー利用を図ることも大切である。私が子どものころの燃料は薪炭であったが、石油文明の浸透に伴ってその消費量は激減した。しかし、木質バイオマスの利用が消滅したわけではない。
 製紙業界では、戦後しばらくすると黒液発電に取り組む工場が登場し始め、高度成長の時期に広範に普及した。洋紙はパルプからセルロースを抽出して製造するが、後にリグニンを主成分とするパルプ廃液が残る。これはれっきとした木質バイオマスだが、川や海に捨てれば恐ろしい公害を引き起こす。これを避ける方法として製紙産業自身が選択したのは、パルプ廃液を黒液という名の自家発電用の重油代替燃料として利用することであった。
 私は、1993年に『電力自由化の経済学』という本を刊行する機会を得たが、そのきっかけの一つが、その2年前の十条製紙(現在は日本製紙)石巻工場の見学であった。そこでは石炭ボイラー、重油ボイラーと並んで黒液ボイラー、バーク(樹皮)ボイラーが蒸気タービン発電のための蒸気を生みだしており、その結果、見学当時の数値として工場で使われる電力の99%が自給されていた(同上132-135頁)。
 木質バイオマスを考えるとき、この工場見学の約1年前の三重県一志郡美杉村(現・松阪市美杉町)訪問も忘れがたい。正確にいうと、美杉村上多気の個人経営の製材所・信栄木材を訪ねておが屑コージェネレーション設備を見学させていただいたのである。この設備は、当時の経営者・鈴木信夫氏が製材工程で出るおが屑から木質ガスを発生させる円筒状の装置を自作し、そのガスを小型船舶用ディーゼル・エンジンの改造版に導いて発電し、余熱も利用もするものであった。電気出力は100kW程度で、電気は所内動力用、熱は木材乾燥用の熱電併給として使われた(同上135-144頁)。残念ながら山間部での製材業の不振のあおりでこの装置はいまでは停止しているが、小規模な木質コージェネとして日本のパイオニアであったことは確かである。
 その後、2002年ころから全国各地に蒸気タービン方式の木質バイオマス発電所が増加し始めた。出力は5,000kWから1万kWを超えるものもある。燃料は工場自給の事例は少なく、産業廃棄物処理業者などから購入する一般木材(製材所や合板工場の残材など)やリサイクル木材(家屋解体材などの建築廃棄物)が主であった。

「未利用木材」の可能性

 2012年7月からは再生可能エネルギー電気の固定価格買取制度(制度)が導入されたが、木質バイオマス発電もこの法制度の適用対象となっている。未利用木材という聞き慣れない言葉の登場はこのころからである。ここでは詳細を述べる余裕がないが、再生可能エネルギーによる発電コストは通常の火力発電より高水準であり、木質バイオマス発電の場合、リサイクル木材発電、一般木材発電、未利用木材発電の順に高い買取価格が保証されている。2015年4月からは、未利用木材発電に関し、電気出力の規模による「別区分化」が設けられ、2,000kW以上の場合の32円/kWhに対し、2,000kW未満の場合40円/kWhとなっている。
 林業分野では、植林後の針葉樹林で森林荒廃を防ぐには間伐が不可欠とされるが、搬出のコストが高すぎれば伐採された材は林地残材として森林にとどまり、間伐材としての価値が発揮できない。そうした林地残材が未利用木材であり、それを搬出・燃料とする発電による電気が高く売れれば、森林整備に資するのではないか。そうした社会的期待を担っての高価な未利用木材発電である。さらに、その発電が小規模で地域密着型となるよう、2,000kW未満の発電に対する優遇策がとられているわけである。
 バイオマス産業社会ネットワーク編『バイオマス白書2015』によれば、2012年7月以降に稼働・建設・計画されている全国の木質バイオマス発電事業は70件にのぼっている。特に2015年度から2017年度が稼働開始ラッシュとなりそうだ。依然として大部分が出力2,000kW以上の蒸気タービン式だが、2,000kW未満のものも8件ある。これらについては、内燃機関によるコージェネ方式が多い。

輸入バイオマスの盲点

 日本における熱利用のない発電のみの木質バイオマス利用には、熱エネルギーの利用効率の低さという問題があるが、それとは次元の異なる問題もある。輸入バイオマスを燃料とする発電も一般木材発電とみなされ、一定の優遇措置がとられているのである。最近目立つのは、マレーシアやインドネシアから輸入したパームヤシ殻(PKS)を燃料とする既設の、あるいは建設中の発電所の増加傾向である。これは、技術的には木質バイオマス利用であっても、社会的には、そしてエコロジーの視点からも、国内の森林整備などとは一切無関係な事業であることに注意したい。

今、薪炭のある暮らし

 最後になったが、石油文明が隅に追いやったかのように見える薪炭についても、新しい形態での薪やその加工品の利用がようやく注目されるようになっている。熱の利用効率の高い薪ストーブの開発が進んでいるだけでなく、使い勝手の良い木質ペレットも普及してきている。いったん歴史の背景に退いた感のある木のエネルギーが、新たに木質バイオマスの名で大活躍を始めているのである。

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